4月12日 ロンドン公演(カドガンホール)

4月12日 ロンドン公演(カドガンホール)

日本フィルハーモニー交響楽団はヨーロッパ大陸を離れ、3公演を控える英国に上陸した。移動日と休養日を経た2019年4月12日、ロンドン・チェルシー地区のカドガン(Cadogan)ホールでツアー中8回目の公演に臨んだ。カドガンは18世紀以来のチェルシー地区の大地主の名前。1907年に建てられた擬ビザンチン様式の教会に取り壊しの恐れが出たとき、カドガン不動産が歴史的建造物の保存を目的に取得。2004年、座席数950のコンサートホールとして再生した。現在はロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団が本拠を置くほか、クラシックからロックまで、多彩な音楽のレコーディング会場としても頻繁に使われている。

ゲネプロで再び合流した首席指揮者ピエタリ・インキネンが「ノーブルで温かい」と指摘したように、とても響きの美しいホール。日本フィルのメンバーも5日連続公演の疲れを癒やし、すっかり生気を取り戻した。インキネンの指示は「最初の弓は強いアタックではなく、スライドさせるように当てて」「もう少し明確にピツィカートのニュアンスを変化させて」など、より具体的になった。

プログラムは8日のウィーンと同じ「D」。チェロのシェク・カネー=メイソンが4日ぶりに戻ってきた。ラウタヴァーラ「In the Beginning」に続くエルガーの協奏曲でのシェク、インキネン、日本フィルはホールの規模と音響に従い、室内楽的に繊細な音楽の会話に徹した。日本のオーケストラのロンドン公演は集客に苦労しがちだが、地元のシェク人気で売り切れたのは喜ばしい。歓声もスタンディングもあったのに、アンコールを弾く前に拍手が終わり休憩となってしまったのに驚いていたら、シェクのマネジャーの英国人女性が「このホール、いつも素っ気ないのよ」と教えてくれた。

ところが後半、シベリウス「交響曲第2番」の後は「悲しいワルツ」「フィンランディア」と異例のアンコールが2曲も続き、協奏曲を上回る大歓声とスタンディングに包まれて幕を閉じた。その前に置かれた武満徹「弦楽のためのレクイエム」で実感したように、ウィーンの成功を経てインキネンと日本フィルのメンバーのコミュニケーション密度が高まり、より強い音楽のメッセージを放ち始めた。

シベリウスでは緩急の振幅を大きくとり、ブルックナーを思わせるルフトパウゼ(間の終止)も効果的に使いつつ、楽想の変化を克明に追う。第2楽章の宗教的感情が深まる一方、第4楽章の恰幅は格段に良くなり、幸福感に満ちた美演が生まれた。「アンコールはシベリウスのワルツ」と突然、日本語で切り出したインキネン。会心の出来に、高揚した気分を珍しく表に現したのだと思う。

 

文・音楽ジャーナリスト 池田卓夫

写真・山口敦