4月7日 レーゲンスブルク公演(アウディマックス)

4月7日 レーゲンスブルク公演(アウディマックス)

ドイツの3日目はDB(ドイツ鉄道)のICE(インターシティエクスプレス)で一気に南下、旧市街が世界遺産の古都レーゲンスブルク(バイエルン州)まで来た。人口15万人。日本で人気の高い大聖堂の少年聖歌隊(Die Regensuburger Domspatzen=レーゲンスブルクの雀たち)の起源は7世紀に遡るとされ、バリトンのトーマス・バウアーやベンヤミン・アプルら世界的歌手を輩出してきた。池田理代子の長編漫画「オルフェスの窓」はここの音楽学校を舞台に始まり、歌劇場では指揮者の阪哲朗が2009〜17年に音楽総監督を務めるなど、レーゲンスブルクは日本人にとって、音楽都市のイメージも強い。

公演会場は1962年創立と、ドイツでは新しい部類に属するレーゲンスブルク大学の構内にあるAudimax(アウディマックス=1470席)。開館が1年違いのせいか、コンクリート打ち放しの内装は東京文化会館を思わせる。たっぷり響く音響は悪くない。首席指揮者ピエタリ・インキネンはゲネプロで手をたたいてみせ、日本フィルハーモニー交響楽団のホルンセクションに「力まず、たっぷり吹いて大丈夫」と指示。同じ「B」プログラムの3日連続3日目ということで3曲とも簡単な確認にとどめ、45分で切り上げた。

冒頭のラウタヴァーラ「In the Beginning」からして、しっとりとした情感が際立った。病欠者も出るなど、「乗り打ち」(公演と移動の連続)の疲れがピークに差しかかっているにもかかわらず、いや、その自覚があればこそ、ペース配分は行き届き、求心力が端正な響きを整える。チャイコフスキーの「交響曲第4番」は今日で最後だが、冷静と情熱のバランス、弦の粘りと美しさなどにおいて、最高の仕上がりとなった。インキネンの棒さばきも「ため」がきいてきて、間のとり方が絶妙といえた。最後の熱狂が途絶えた瞬間、ブラヴォーが飛び交った。アンコールの「悲しいワルツ」も、見事に決まった。

ジョナサン・ビス独奏によるベートーヴェンの「ピアノ協奏曲第3番」は前日のヴォルフスブルクと同じスタインウェイながら、音色やタッチの傾向が全く異なるのを受け、演奏の傾向を鮮やかにギアチェンジした。前日の軽やかでクリスタルな楽器ではモーツァルトからの影響を最大限に描出させたのに対し、レーゲンスブルクの重くダークな響きではベートーヴェンの個性に、より多くの光を当てた。音色から受ける印象だけ挙げても、エッチングと毛筆くらいの違いがあり、再現芸術家としての「引き出し」の豊かさを印象づけた。前日のアンコールはモーツァルトだったが、今日はベートーヴェンの「悲愴」ソナタの緩徐楽章。ビス本人に真意を確かめると案の定、「ピアノのキャラクターの違いに合わせ、アプローチを変えた」という。こうした当意即妙の対応、ライヴ感覚をねがわくば、すべてのピアニストが身につけていてほしい。

文・音楽ジャーナリスト 池田卓夫

写真・山口敦