4月5日 ヴィルヘルムスハーフェン公演(シュタットハレ)

4月5日 ヴィルヘルムスハーフェン公演(シュタットハレ)

ヨーロッパ公演は2つ目の訪問国、ドイツに入った。5日は北海に面した軍港とコンテナ埠頭の街ヴィルヘルムスハーフェン。プロイセン海軍の重要拠点だったため、ドイツ帝国初代皇帝ヴィルヘルム1世の名を冠した。現在もNATO(北大西洋条約機構)の海軍基地がある。街の構えは大きいが、人口は85,000人とフィンランドのコウヴォラ並み。高齢化も進んでおり、公演会場シュタットハレの客席の平均年齢はかなり高い。

彼らの音楽への関心は依然「古き良きドイツ」の教養主義と一体で、開演前に音楽学者のマルクス・プリーザーが行なった楽曲解説は満席、立ち見も出るほどの盛況だった。

曲目は「B」プログラム。1曲目は2016年に亡くなったフィンランドの作曲家エイノユハニ・ラウタヴァーラの遺作「In the Beginning」。首席指揮者ピエタリ・インキネンが2017年11月17&18日の日本フィルハーモニー交響楽団第695回定期演奏会で、アジア初演を行なった。シベリウス以来の音楽史を俯瞰するかのような幻想的な響きに満ち、耳なじみもいい半面、ドイツの前衛的な新作の対極に位置する。日本のオーケストラとフィンランド人シェフがドイツの聴衆を前に、独自のアイデンティティーを発揮するには最適の作品といえた。ヴァイオリニストでもあるインキネンとの関係が深まるにつれ、透明度と厚みの二律背反を現実のものとしつつある日本フィルの弦楽セクションの力量を示す上でも、十分の効果を発揮した。

次はインキネンと同じく1980年生まれの米国人ピアニスト、ジョナサン・ビスをソロに迎えたベートーヴェンの「ピアノ協奏曲第3番」。2020年のベートーヴェン生誕250周年に向け、交響曲全9曲の演奏を予定するコンビの今後を占う選曲だ。果たして、日本フィルに染み付いた重厚長大型演奏の「垢」を洗い流し、近年のHIP(歴史的情報を踏まえた演奏解釈)の流れも十分に意識、短めのアーティキュレーションと俊敏なフレージングの新鮮な管弦楽が現れた。ビスもスタインウェイを弾きながら、ピリオド楽器のフォルテピアノの音色や音の減衰を念頭に置く。ノンレガートに近いタッチ、軽やかなリズムでモーツァルトの影響も浮かび上がらせるなどで、美意識を指揮者と共有した。

後半はチャイコフスキーの「交響曲第4番」。2008年にインキネンが日本フィルと初共演した際に大きな評判を呼び、1年後の首席客演指揮者、8年後の首席指揮者就任への道を決定づけた「運命の1曲」である。当時の記憶と比較して日本フィルとの一体感が格段に高まったのはもちろん、インキネン自身の成長で音楽のスケールが拡大した。端正な佇まいはそのままに旋律の歌わせ方、間のとり方などが格段に深みを増し、人肌の温もりを感じさせるようになった。オーケストラの力量の真の決め手である弦のパワーも、ドイツの聴衆が瞠目するほどの水準に達し、ブラヴォーや口笛での祝福を引き出した。

文・音楽ジャーナリスト 池田卓夫

写真・山口敦