4月2日 ヘルシンキ公演(ヘルシンキ音楽センター)

4月2日 ヘルシンキ公演(ヘルシンキ音楽センター)

 

翌日

日本とフィンランドの外交関係樹立と創立指揮者の渡邉暁雄生誕、それぞれの100周年が重なる記念の2019年。日本フィルハーモニー交響楽団は6度目のヨーロッパツアーにして初めて、渡邉の母の国フィンランドでの公演を実現した。4月2日、首都ヘルシンキでのツアー初日は首席指揮者ピエタリ・インキネンにとっても、日本でのパートナーを自国の聴衆、関係者に「お披露目」する重要な場だった。83人の楽団員、日本からの応援ツアーに参加した34人の長年のファン・支援者も「日本フィルのシベリウス」が作曲家の本国でどう受け止められるのか、期待と不安の入り混じった演奏会である。
公演実現に協力した駐フィンランド日本大使館の山本条太大使たっての希望で、記念演奏会はシベリウスの「交響詩《フィンランディア》」で始まった。フィンランドのオーケストラが奏でる感情のベクトルは内へ内へと沈潜していくのに対し、日本フィルのサウンドは厚みある弦を基盤に、外へ外へと放たれていく。インキネンもそうした違いを踏まえ、マッチョ志向で緩急の振幅を大きくとるリスクを恐れない。ヘルシンキの聴衆が多少ユニークなシベリウス像に戸惑ったとしても、モノマネを断ち切り、独自の表現を打ち出す方が趣旨にかなうとでも思っているようだ。

2曲目は日本側からの名刺がわりのように、武満徹の出世作「弦楽のためのレクイエム」。1957年初演の古典、和楽器を使わない弦楽5部のシンプルな佇まいながら、厳しく切り詰められた響きと「間」(ま)の絶妙な組み合わせが今なお、西洋とは異質な世界の現代音楽を印象づけた。
続く協奏曲では英国の新進チェリスト、シェク・カネー=メーソンが情感豊かにエルガーを独奏した。すでにメジャーレーベル(ユニバーサル)からCDも出しているが、4月4日でやっと20歳という伸び盛り、録音よりも一段と熟した音楽を聴かせた。かなりの技巧の持ち主ながら一瞬も温かさを失わず、肉声のように深い歌を奏でる。インキネンと日本フィルの管弦楽も、心のこもったものだった。
後半は再びシベリウス。最も有名な交響曲である第2番の正面勝負にも、インキネンは「フィンランディア」と同様、ハイテンションでダイナミックな切り口から挑む。

あまりの激しさに楽員が戸惑い、傷がなかったわけではない。しかしフィンランドと日本の文化交流の歴史に新たな1ページを開こうと、誠心誠意の演奏を繰り広げる日本フィルの壮絶な演奏に感じ入る聴衆は多く、第1楽章が終わるとはや、盛大な拍手が起こった。
アンコールもシベリウスで、「悲しいワルツ」。聴衆と楽員、双方の熱い交歓をねぎらうかのように、穏やかで美しい音楽が記念の演奏会を締めくくった。

文・音楽ジャーナリスト 池田卓夫

写真・山口敦