【記事掲載】音楽の友11月号より「アレクサンダー・リープライヒ」

12月の第716回東京定期演奏会に出演するアレクサンダー・リープライヒ(指揮)が『音楽の友』11月号(2019年11月1日発行)Peapleで紹介されました。

 

アレクサンダー・リープライヒ  ●指揮
Alexander Liebreich 

取材・文=山崎浩太郎
写真=堀田力丸

 

作曲家と作品の本質を射抜く魅惑の知性

3月の日本フィル初共演からはやくも再登場

 今年3月に日本フィルハーモニー交響楽団の定期演奏会に初登場し、ロッシーニ「歌劇《どろぼうかささぎ》序曲」、ルトスワフスキ「交響曲第3番」、そして大好きだというベートーヴェン「交響曲第8番」を指揮して、好評を博した。
 珍しいことに、初登場よりも前に12月の2回目の客演が決まっており、オーケストラ側の期待のほどがうかがえる。間もなく迎えるこの再登場では、モーツァルト「歌劇《ドン・ジョヴァンニ》序曲」、ルトスワフスキ《オーケストラのための書》、R.シュトラウス「交響詩《英雄の生涯》」を指揮する予定だ。
 3曲のなかで、ルトスワフスキ作品は1回目の「交響曲第3番」に続いての指揮となる。2012年に、ポーランド国立放送交響楽団の首席指揮者兼芸術監督を外国人として初めて務めるようになって、ドイツ時代にはあまり知らなかったポーランドの音楽に親しみ、なかでもシマノフスキとともに夢中になったのが、ルトスワフスキの音楽だった。
 「音楽の明晰な構造を重視し、理知的で、響きを大切にすることが、その魅力です。ポーランドの知識階級に共通する特質として、フランス文化に造詣が深かったルトスワフスキの音楽には、フランス印象派の作品に通じる叙情性がある」という。《オーケストラのための書》にもフランス語で説明がつけられており、クラリネットが語り部となって、6つの章と最終章からなる物語を進めていく、詩的で繊細な、貴族的な洗練をもった音楽だ。「オーケストラは『交響曲第3番』を演奏したことでルトスワフスキの音楽言語に親しんだから、さらによくなるはず」という。
 後半はR.シュトラウス「交響詩《英雄の生涯》」。ディスクでのリープライヒは古典派と現代音楽の録音が多いので意外だが、シュトラウスの音楽を愛するだけにとどまらず、ヴォルフガング・サヴァリッシュの後任としてミュンヘンのシュトラウス協会の会長をつとめ、さらには作曲家が長く暮らしたガルミッシュ=パルテンキルヒェンでは、作曲家の名を冠した音楽祭の芸術監督の地位にある。リープライヒの家系はもともとチェコのブルノ出身で、父方の曾祖母はユダヤ人。だから、ナチス時代のシュトラウスの行動については賛同できないが、音楽に関しては天才だと感じている。
 「盲目的に賛美するのではなく、冷静で批判的な視点をもつことは必要だが、同時に人間への敬意も忘れてはならない。白か黒かをはっきりさせようとするだけでは、平和は訪れない。人間には二面性があるのが当たり前」
 今回演奏する《英雄の生涯》の英雄も、あまり英雄らしくないのが面白いそうだ。
 「シュトラウス作品の登場人物に、完全無欠のヒーローは出てこない。ドン・キホーテもティル・オイレンシュピーゲルも失敗するし、《アルプス交響曲》の主人公は嵐に見舞われ、ツァラトゥストラも葛藤を抱えて苦しんでいる」

 人間的な弱さを見せる点にこそ、魅力を感じるのだ。

 

『音楽の友』2019年11月号より転載