第700回記念 特設サイト

アレクサンドル・ラザレフ 写真:山口敦

1957 年4 月4 日に日比谷公会堂ではじまった日本フィル東京定期演奏会が、2018 年5 月に700 回を迎えます。

この記念すべき演奏会で桂冠指揮者兼芸術顧問のアレクサンドル・ラザレフとともに、ストラヴィンスキーの《ペルセフォーヌ》(1934 年)を日本初演いたします。
台本はギリシャ神話をもとに文豪アンドレ・ジイド(『狭き門』等の作者)が書き下ろしたもの。
大編成のオーケストラ、テノールの歌で進行、水の精や亡霊たちの合唱も加わり、春と農耕の女神、ペルセフォーヌが語る、ストラヴィンスキーの壮大な音楽です。

 

<公演日時>2018年5月18日(金)19:00
      2018年5月19日(土)14:00

<公演会場>サントリーホール

<指揮>アレクサンドル・ラザレフ
    [桂冠指揮者兼芸術顧問]

 

予告動画

 

 

公演内容

◆ストラヴィンスキー:メロドラマ《ペルセフォーヌ》

 イーゴリ・ストラヴィンスキー(1882-1971)の作品でも《ペルセフォーヌ》は不遇な傑作だ。バレエ作品としては幾つもの優れた舞台を生んできたものの、語りと独唱・合唱を伴う編成に詩的で象徴的な台本のせいもあってか、コンサートで聴かれる機会は少ない。しかし、清冽な詩情とともに響き語られる、悲嘆と復活の神話は爽やかで優しく、美しい。──〈緻密なる猛将〉ラザレフとともに表現力を深く広げてきた日本フィルが、700回目の定期演奏会という記念すべき機会にこの〈秘曲〉を体感させてくれるのは大きな喜びだ。

 ストラヴィンスキーは1910年代、《春の祭典》などロシアの文化や民話に素材を求めた色とリズムの強烈なバレエ音楽で世を驚かせたが、《プルチネルラ》(1920年初演)あたりから新古典主義的な作風に転じる。ソフォクレスの戯曲を語り手とラテン語歌唱による舞台作品にしたオペラ・オラトリオ《エディプス王》(1927年初演)、ギリシャ神話を素材としたバレエ音楽《ミューズを率いるアポロ》(1928年初演)と、ストラヴィンスキーの古典へのまなざしは深さをひろげてゆく。

 そして、ラテン語歌唱による合唱つきの《詩篇交響曲》(1930年初演)などに続いて生まれた大作が《ペルセフォーヌ》(1934年初演)。語りと音楽による〈メロドラマ〉(ギリシャ語の melos[歌]と drama[劇]の合成語で、ここでは語りと共にその感情を音楽で表現する形式のこと)として創られた力作だ。

 台本は『狭き門』『田園交響楽』などで有名なフランスの作家アンドレ・ジッド(ジイド/1869〜1951)。『プロセルピーヌ──四景の劇的交響曲』(1903年頃)と題された構想と下書きを基に、20年以上経ってから『ペルセフォーヌ』と改題して完成された戯曲にストラヴィンスキーが作曲することになるのだが、ギリシャ神話からジッドが彫琢した台本は、物語を明快に追うというより、登場人物たちの言動も進行役らの歌唱に集約されている詩的な翻案だ。字幕を追うだけではわかりづらい部分もあるかと思うので、基になった物語を要約しておこう。

 ──冥界の王に誘拐されたペルセポネ(台本のフランス語読みではペルセフォーヌ)は、王の妻となるよう贈り物を積まれるが、食を絶って心ゆるさず、求婚を拒み続ける。娘の拉致を知った母・豊穣の女神デメテルは怒り、それによって大地は実りを失う。飢饉に困った父ゼウスは冥界の王ブリュトンを説得し、ペルセポネを母のもとへ戻そうとする。ところがペルセポネは渇きに耐えかね、ザクロの実を噛んでいた。冥界の食べ物を口にした者は地上へ戻れないのだ。しかし父ゼウスのとりなしで、冥界に留まる季節と地上へ戻る季節をわけて双方で暮らすことになる。母の喜びが地上に溢れる季節は春となり‥‥これが、ペルセポネが春と農耕の女神となった由来であり四季の誕生である──というお話。

 こうした神話をベースに、古代ギリシャで広くおこなわれていた〈エレウシスの秘儀〉(黄泉の国からの帰還を演劇的に再現することで死後の幸福を願ったと伝えられる謎ふかい儀式)も生まれたのだが、ストラヴィンスキー&ジイドの《ペルセフォーヌ》は、エレウシスの祭司ユーモルプが進行役として独唱をつとめ、水の精や黄泉の亡霊たちなど合唱団がさまざまな役を歌う、という仕掛けになっている。

 全曲は第1場《ペルセフォーヌの誘惑》、第2場《冥界のペルセフォーヌ》、第3場《甦るペルセフォーヌ》と3つの部分から成る。──作品そのものが〈神話を再現する演劇的な儀式〉のように見えもするのだが、主役・ペルセポネが「歌わず、語る」役になっているのも面白いところ。これは、本作がイダ・ルビンシュテイン(1885〜1960)のバレエ団のために委嘱されたためだ。

 彼女は一世を風靡したダンサーで、ラヴェル《ボレロ》やストラヴィンスキー《妖精の口づけ》を委嘱するなど多くの傑作誕生にも貢献したひと。1934年4月30日、パリ・オペラ座でストラヴィンスキーの指揮でおこなわれた世界初演も、ルビンシュテインが主役を舞踊と語りで表現した。振付は反戦のメッセージをこめたバレエ《緑のテーブル》[1932年]で注目を集めていたクルト・ヨース(1901〜79)。

 ところが、初演前から台本作家と作曲家の意見は食い違いをみせていた。ジッドのほうは、朗読のような抑揚がメロディに反映されることを前提に書いていたにも関わらず、ストラヴィンスキーは言葉の躍動を音節の力強さへ生かしていく‥‥と正反対の発想で作曲したのだ。

 ルビンシュテインによる上演は数回で終わり、ジッドはこの音楽に満足せず、ストラヴィンスキーも成功作とは考えていなかったようだが、英国の名匠アシュトンによる振付(1961年)が大成功を収めるなど、作品の可能性はむしろ後世に拓かれた。視界の澄んだサウンドをつくる無駄なく巧みな書法といい、清冽な響きにも甘やかな魅力を薫らせながら生き生きと躍動する音楽‥‥《ペルセフォーヌ》は凛と美しい。

 

交響的協奏曲

 

◆プロコフィエフ:チェロとオーケストラのための交響的協奏曲 ホ短調 作品125

 ペテルブルク音楽院在学中から鬼才ぶりを発揮、辣腕ピアニストであると共に新時代を拓く作曲家としても注目されていたセルゲイ・プロコフィエフ(1891-1953)は、青年期にヨーロッパへ進出。大胆な創意に溢れたオペラやバレエ、尖鋭的な交響曲を書いたり‥‥。しかし《春の祭典》など数々のバレエ音楽で芸術界を震撼させた(同じロシア出身の)ストラヴィンスキーの大成功にはなかなか及ばない。プロコフィエフは前衛的な作風からやがて、澄んだ鋭さに抒情あふれる作風へと転じ、帝政ロシアからソ連へと姿を変えた祖国へ帰還する。

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 バレエ《ロミオとジュリエット》で新境地を拓いたのち、舞台作品から距離を置いたプロコフィエフは〈チェロ協奏曲第1番 ホ短調〉作品58を仕上げる(1938年初演)。これは、パリ滞在時代から名チェリスト、ピアティゴルスキーの委嘱を受けて書き始めていた力作だったが、途方もなく演奏至難なこともあって評判も芳しからず、しばらく埋もれてしまった。

 ところが、この難曲が9年ぶりに蘇演されることで新たな展開が生まれる。若き名手、20歳のロストロポーヴィチがこの曲を弾くのを聴いたプロコフィエフは、この天才チェリストの表現力に刺激を受けて〈チェロとピアノのためのソナタ ハ長調〉作品119(1949年初演)を書き、さらに〈チェロ協奏曲第1番〉の素材を生かして新しいチェロ協奏作品へ書き改めることになった。──それが本日お聴きいただく〈交響的協奏曲〉だ(1952年初演)。

 前作の素材をたっぷり生かしながら、より歌唱性や抒情美を増し、生き生きとした色彩や幻想性に熟練をみせるこの曲は、前作の改訂版というより「同じ素材を用いた全く新しい作品」になった。ロストロポーヴィチからチェロ演奏技術について具体的な助言を得ながら超絶技巧に磨きをかけ、オーケストラ表現も豊穣を増し(そのため、はじめ〈チェロ協奏曲第2番〉とされていたタイトルも独奏と管弦楽の比重を反映して〈交響的協奏曲〉とされた)、20世紀チェロ協奏曲の傑作が誕生したわけだ。

 曲は3楽章から成る。オーケストラの鋭い上行音型に続いて独奏チェロが朗々と力強く歌いだす第1楽章[アンダンテ]は、抒情的な歌と超絶技巧を見事に昇華するチェロ独奏に、豊かな起伏とスケール大きな表現で応えるオーケストラ‥‥物語性まで感じさせる音楽だ。第2楽章[アレグロ・ジュスト]はスケルツォ的な音楽だ。リズミカルな前奏に続いてチェロ独奏のパワフルな技巧炸裂、雄弁に応えるオーケストラと共に疾走するかと思えば、高音域に息長く夢みるような主題が歌われ‥‥長大なカデンツァも圧倒的。第3楽章[アンダンテ・コン・モート]は変奏曲形式。独奏チェロが歌い出す主題(後半で重音奏法をくわえ厚みを増している)の呈示から、速い3拍子にかわって変奏が始まる。面白いことに、チェロの技巧的な疾走が続くなか曲調が舞曲風に変わった先に、2つめの主題が登場し(ベラルーシ民謡に基づく)、変奏曲はより複雑に愉しさを増してゆく。コーダには前楽章の主題も再登場、巧緻な構成と色彩はいよいよ華麗な昂揚へ。

 

ラザレフが語る
《ペルセフォーヌ》

 

ラザレフ、第700回東京定期演奏会

ストラヴィンスキー《ペルセフォーヌ》を語る

2017年10月25日(水)大田区民ホール・アプリコにて記者懇談会を開催しました。

登壇:アレクサンドル・ラザレフ(指揮)

   小賀明子氏(通訳)

   ドルニオク綾乃(ナレーション)

 

マエストロ・ラザレフ(以下ラザレフ):今日はお越しいただきありがとうございます。

日本で愛されている作曲家、ロシア音楽はたくさんありますが、日本ではロシアの音楽というと、まずチャイコフスキーの《白鳥の湖》、ストラヴィンスキーでいうと《春の祭典》をあげられるでしょう。《春の祭典》に至っては、おそらく毎日演奏されているのではないでしょうか。とっても上手に演奏されていると思います。だから私たちはあえてこの曲を演奏することは致しません。《ペルセフォーヌ》とってもいい音楽ですよね。

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美しい音楽です。難しさが何かというと、参加者がたくさんいることです。参加者が多すぎて、私が通る場所がない。どうやって通って行こうか、指揮台まで。まず、行き方がわからない。私はそういう状態は好きではないですけど、まあ、たまにはいいかなと思っています。

 

―――――イダ・ルビンシュタインとイサドラ・ダンカンについて

この作品が生まれる経緯において、とても重要な役割を果たした女性がいます。イダ・ルビンシュタインです。綾乃さんのようにルビンシュタインもとても美しい女性でした。その彼女はとても裕福な女性でした。1910年にロシアのヴァレンティン・セローフという有名な画家が彼女の肖像画を描いています。ネットでどうぞご検索下さい。とても美しい女性でしたが、踊りは下手だったと思います。踊りの教育を受けていないんです。当時のロシア芸術劇場においては、アンナ・パブロワというような名ダンサーがいたわけですよね。そういう名ダンサーがいる中で、ディアギレフにとっては踊りのさほど上手ではないルビンシュタインは言ってみれば必要なかったのです。見限られてしまったのです。しかしルビンシュタインは注目の的になりたかったわけですから、自分でいろいろなモーションをかけ始めるわけですね。そのイダ・ルビンシュタインにとってとても大切で、彼女の名前に密接につながっているのがストラヴィンスキーのバレエ《妖精の口づけ》という作品です。ただ、今はっきりとは覚えていないんですけれども、《妖精の口づけ》を彼女は注文したのですが、どうやらうまくいかなかった。先ほども言いましたが、彼女は踊りの教育を受けていないのですから。

私の頭の中に、踊る美しい女性、で浮かんでくるのがイサドラ・ダンカンがいます。彼女も踊りを特別には勉強していません。でもキジ(鳥)のように美しく踊ることができたわけです。モスクワ音楽院の近くにイサドラ・ダンカンの名前の付いた踊りの学校ができました。ボリショイ劇場の舞踏学校と、ダンカン舞踏学校というのがあるんです。ダンカンはとても見た目も美しかったので、ロシアの有名な詩人、エセーニンが彼女に恋をしてしまいました。エセーニンは彼女と結婚し、彼女はエセーニンをアメリカに連れ帰りました。けれども彼女はエセーニンが酒飲みだということを知らなかった。彼もとても素晴らしい詩人でしたが、浴びるようにお酒を飲んでいました。彼は時々ダンカンに暴力をふるっていたということもあるようです。そのあとで二人は別れてしまうんですけれども・・・。ということでダンカンも舞踏教育を受けていないのですが、彼女もロシアの芸術の歴史の中で名を遺した一人です。イダ・ルビンシュテインもそういうこともあったので、許してあげましょう。

ストラヴィンスキーはとても良いスコアを書きあげています。たくさん人がいます。いい音楽です。素晴らしい合唱がたくさん出てきます。子どもたちも最後の方に歌います。最後は静寂の永遠の中に音楽が消えていきます。私は聴衆としてコンサートホールに行けるのであれば、「ペルセフォーヌ」は聴きに行くでしょう。ストラヴィンスキーは第1ページに、イダ・ルビンシュタインの注文によりこれを書き上げ、初演に彼女が参加したというようなことをたくさん書き、スコアの中に彼女の名前はしっかり刻まれています。

 

―――――次は綾乃さんの番です(ラザレフ)

ドルニオク綾乃(以下ドルニオク):日本初演の《ペルセフォーヌ》をペルセフォーヌ役でやらせていただけるのを光栄に思っています。と同時に、とても責任を感じています。セリフと歌と音楽が一体になったユニークな作品だと思うのですが。

ラザレフ:ペルセフォーヌというのは、黄泉の世界に降りて行って苦しんでいる人を助けてあげるのだから、苦しんでいる人に救いの手を差し伸べてあげる役割があなたにはありますよね。あの、綾乃さん、あなたは困っている人に手を差し伸べてあげられますか?

ドルニオク:はい。

ラザレフ:じゃ、あなたは立派なペルセフォーヌです。

ドルニオク:人助けをまず頑張りたいと思います(笑)。あとはそうですね、ギリシャ神話の話なので、ギリシャ神話も読みながら勉強しています。フランス語でペルセフォーヌの気持ちや状況を話すのですが、字幕はつきますが、フランス語でどれだけ日本のお客様に伝えることができるか模索しながら頑張りたいと思います。

ラザレフ:音楽もサポートしますよ。

ドルニオク:音楽と演劇が一緒になるという独特な作品だと思います。それから、ギリシャ古典演劇は、役者とコーラスでできていたと思うのですが、そこと関係があるのでしょうか?

ラザレフ:イダ・ルビンシュタインのために書かれたわけです。歌えもしなかったし、踊れもしなかったから、語るしかなかった。へたっぴなダンサーだったから。
 

―――――作品を委嘱する、ということについて

ラヴェルが左手のための協奏曲を書き上げたのは、右手を使えなくなったヴィトゲンシュタインのためです。彼はプロコフィエフに協奏曲第4番を書いてくれと言って書かせたのですが、気に入らずに演奏していません。イダ・ルビンシュタインがいろいろ注文して書き上げられた作品がありますが、その中には気に入らなかったものもあるかもしれませんね。いい時代ですよね。お金を持っている人が作曲家に作品を書いて、と依頼してそれで作品が生まれたと。それはそれでよい時代だと思います。今もそういう伝統が続いて、曲が生まれて、日本フィルに演奏してもらえればいいですよね。


【質疑応答】

Q1:テキストを書いたジイドがずいぶん前からテキストを準備して楽しみにしていたにもかかわらず、ストラヴィンスキーの作品が気に入らずリハーサルを一回見ただけで本番は聞いていないと聞いています。テキストと音楽の難しい関係がなかなか再演されない原因があるのかなと思いますが、フランス語のテキストとストラヴィンスキーの音楽の関係について教えてください。

ラザレフ:初演には同席していないので、その辺の詳細はなんとも言いかねるんですが。劇場で指揮者と演出家の関係に似ていると思いませんか。どっちが大事か、どっちが上か、どっちが優位か。私がオペラ劇場でオペラを振るときは、やはり一番上に立つべきは作曲家だと思います。ジイドは、あんまり作品自体を好きじゃなかったとおっしゃいましたが、ストラヴィンスキーがリブレットを好きじゃなかったという話は聞いていませんよね。

ロシア音楽の歴史を見てみますと、グリンカの《ルスランとリュドミラ》というオペラがあります。オペラは素晴らしい作品で、リブレットも素晴らしいのですが、とてもせかされて書かれました。初演時、当時のツァーリ(皇帝)、ニコライ1世が来ています。オペラはプロローグとエピローグのついた5幕もの。長いですね。ニコライ1世は、家族と一緒に来ていたのですが、5幕の始まる前に席を立って帰ってしまいました。それを見た当時の社会は、これはよくないオペラだと。リブレットもよくない、音楽もよくない。駄作だと風評が立ってしまいました。もしかすると皇帝はお腹がすいただけだったかもしれない。おうちに帰りたかっただけかもしれない。それで《ルスランとリュドミラ》という作品は、罰として観に行くオペラ作品、兵隊が規則を守らなかったときに、罰を受ける代わりに《ルスランとリュドミラ》を見に行け、というふうに使われてしまうようになったのです。

《ペルセフォーヌ》の音楽は、シンプルです。ちょっとレトロ調な、古めかしいというか、昔っぽいというか。そういう作品を書かせると、ストラヴィンスキーは天下一品です。その前にオイディプス王が書かれていますし、少しスタイルが近いですね。そのあと彼の作品の中に割と古い作風が出てきます。でも古い方を見ながらも、ストラヴィンスキーの時代、彼の言葉でしっかりと書かれている。古臭くはない。ストラヴィンスキーにバッハのかつらをかぶせる。かつらはバッハ、顔はストラヴィンスキー。《ペトルーシュカ》も《火の鳥》(マエストロは焼き鳥と冗談でおっしゃいます)《春の祭典》も、全部ロシアに関わる作品ですね。《ペルセフォーヌ》や《オイディプス王》、《カルタ遊び》の時代になると、ヨーロッパ・ストラヴィンスキーです。

 

Q2:マエストロご自身は、《ペルセフォーヌ》はどこで指揮されていますが?ロシアでも上演されているのでしょうか?

ラザレフ:私はイギリスで振っています。語り、テノール、合唱、今回と同じような形式です。

ロシアでは上演されているかどうかということですが、モスクワに音楽の家というコンサートホールがあるのですが、そこで上演しています。作品そのものについてよりも、演出がとても際どいもので、裸の女性がうろちょろしているような演出で、そちらに話題が持っていかれました。非常に印象は強かったですけれども、音楽については語られなかった。それ以来は演奏されていないと思います。

 

※日本初演と記載することについて

小川昴「新編日本の交響楽団―定期演奏会記録(追補1992-2000)」などを参考に、プロオーケストラの演奏会履歴を調べましたが、同作品の演奏実績を見つけることは出来ませんでした。またこの作品の出版社(BOOSEY& HAWKES)の日本代理店を務めるショット・ミュージック株式会社にも確認したところ、同社が代理店契約を結んだ以降(1993年以降)の記録にも演奏履歴は見当たらない、とのことでした。作品の規模から鑑みて、既に演奏されていながら全く記録が残っていないという事態は考えにくく、今回の私どもの演奏を「日本初演」として提示しております。

 

※ソリストについて

テノールのポール・グローヴスはラザレフからの指名で出演が決定いたしました。既にこの作品の演奏実績もあり、フランス語歌唱にも定評のある名歌手です。

またこの作品のナレーターには、演劇的要素とフランス語解釈と発音、そしてストラヴィンスキーの楽譜を読める音楽的素養も求められます。そういった中でこれら全てをクリア出来る逸材としてドルニオク綾乃を起用いたしました。彼女は現在ベルリン在住で、フランス語・ドイツ語そして日本語に堪能であり、演劇・オペラ奏法の分野で活躍しています。

晋友会合唱団は既にラザレフの信頼も厚く、過去にはスクリャービンの交響曲第5番《プロメテウス》やラヴェル《ダフニスとクロエ》でも共演をしております。

東京少年少女合唱隊とは近年、日本フィル正指揮者山田和樹が指揮するマーラーの交響曲第8番《千人の交響曲》で共演しており、大変優れた演奏を披露してくれました。山田直々の推薦もあり、今回《ペルセフォーネ》日本初演という大舞台をお願いすることになりました。

 

【こぼれ話】

《火の鳥》の話ですが、ディアギレフは最初にリャードフに持ちかけています。これは正しい選択だったと思います。おとぎ話をテーマにした作品を書かせると、リャードフの右に出るものはいなかった。ただ、ディアギレフはリャードフがとっても怠け者だということを見逃していたのかもしれません。リャードフの作品、小品が多いですよね。リャードフは、《火の鳥》を書くよ、と言ったんです。その3か月後、偶然ペテルブルグの街中で、ディアギレフはリャードフに会いました。

ディアギレフは聞きました「火の鳥はどうですか?」
リャードフは答えました「とっても順調です。五線譜をもう買いました!」
ディアギレフはその足でストラヴィンスキーの元へ向かったのです。

写真:山口敦

出演者プロフィール

アレクサンドル・ラザレフ[桂冠指揮者兼芸術顧問]

写真:山口敦

Alexander LAZAREV, Conductor

ロシアを代表する指揮者の一人。2008年9月から8年間にわたり日本フィルの首席指揮者を務め、2016年9月に桂冠指揮者兼芸術顧問に就任。首席指揮者就任とともに3年に渡る「プロコフィエフ交響曲全曲演奏プロジェクト」を開始し、1秒たりとも無駄にしない徹底したリハーサルで演奏水準を引き上げ、「ラザレフ効果」と評される。2011年9月から5年の契約を延長し、「ラザレフが刻むロシアの魂」をスタート。2013年6月に最終章を迎えた「SeasonⅠラフマニノフ」では、初回から作曲家の人間性にまで深く迫っていく解釈と、妥協なくその解釈を表現させる演奏で会場を熱狂させ、歴史的な作品の評価までをも変える名演となり、センセーショナルなまでの高評価を得た。続く「SeasonⅡスクリャービン」では、日本人には馴染みの薄いスクリャービンの独特な色彩的•神秘的な世界を分かりやすくダイナミックに提示。2014/2015シーズンからは2年にわたり「SeasonⅢショスタコーヴィチ」を展開。すさまじい音圧と作曲家が憑依したような演奏が話題となった。

 モスクワ音楽院でL.ギンズブルグに師事、同音楽院を首席で卒業。1971年にソ連国際指揮者コンクールで第1位、翌年にはベルリンでのカラヤン指揮者コンクールで第1位とゴールド•メダルを受賞。1987年から1995年にかけてボリショイ劇場の首席指揮者兼芸術監督を務める。両タイトルを一人の指揮者が兼任したのは30年ぶり。この間、東京(1989年)、ミラノ•スカラ座(1989年)、エディンバラ音楽祭(1990、91年)、ニューヨーク•メトロポリタン歌劇場(1991年)などの演奏旅行では前例のないプログラムを実行し高い評価を得ている。グリンカ《イワン•スサーニン》、チャイコフスキー《オルレアンの少女》、リムスキー=コルサコフ《ムラーダ》など、同歌劇場における秀作は映像化されている。さらにボリショイ管とは、ラフマニノフ《交響曲第2番》やショスタコーヴィチ《交響曲第8番》などのロシアの交響曲を含む数々の録音をEratoから出しており、大絶賛をあびている。

 数多くのCDをリリースしており、ボリショイ管とはエラート、メロディア、ヴァージン•クラシックスで、BBC響、ロンドン•フィル、ロイヤル•スコッティッシュ•ナショナル管等との録音がある。日本フィルとの録音も多く、最近ではオクタヴィア·レコードより『ラフマニノフ:交響曲全集』、ショスタコーヴィチの交響曲『第4番』、『第11番』、『第8番』、『第7番《レニングラード》』に続き、『第6番、第9番』が2017年2月に発売されている。

 

辻本玲[日本フィル・ソロ・チェロ]

写真:竹原伸治

Rei TSUJIMOTO, Violoncelo

東京藝術大学音楽学部器楽科を首席卒業(アカンサス音楽賞受賞)。ロームミュージックファンデーションより奨学金を得て、シベリウスアカデミー、ベルン芸術大学に留学。

第72回日本音楽コンクール第2位、併せて「聴衆賞」受賞。2007年度青山音楽賞新人賞受賞。第2回ガスパール・カサド国際チェロ・コンクール第3位入賞(日本人最高位)、日本人作品最優秀演奏賞受賞。第12回齋藤秀雄メモリアル基金賞受賞。2015年日本フィルハーモニー交響楽団ソロ・チェロ奏者に就任。

これまでに、読売日本交響楽団、新日本フィルハーモニー交響楽団、東京交響楽団、関西フィルハ-モニ-管弦楽団、日本センチュリー交響楽団等と共演。メタ・ワッツ、オーランド・コール、川元適益、上村昇、山崎伸子、アルト・ノラス、アントニオ・メネセスの各氏に師事。

使用楽器は、NPO法人イエロー・エンジェルより1724年製作のアントニオ・ストラディヴァリウスを貸与されている。

公式サイト http://www.rei-tsujimoto.com

 

 

 

 

 

ドルニオク綾乃

Ayano DURNIOK, Narration

1988年東京都出身。日本大学芸術学部演劇学科演技コース卒業。2015年パリ地方音楽院声楽科、専門課程卒業。声楽を神原誠、服部容子、近藤富佐子、Leontina Vaduva、David Harper、Eva Zwedberg 各氏に師事。

3歳よりクラシックバレエを始める。17歳でフランス、マルセイユStudio Ballet Collet Armand にバレエ留学。帰国後、日本大学芸術学部演劇学科に入学し、コンテンポラリーダンサー、舞台女優としての活動を始める。在学中より本格的に声楽の勉強を始める。

2010年TPT「かもめ」ニーナ役に抜擢。 2013年11月パリ、UCJF劇場にて『愛の妙薬』アディーナ役で出演。この公演は翌年3月にも再演された。 2015年には、ポーランドのベートーベン・イースター・フェスティバルにて、オペラガラに出演。 2016年にはスペイン、サンタニ音楽祭にてオペラガラに出演。 草津国際夏期音楽アカデミーフェスティバルにてエリックサティ音楽喜劇「メドューサの罠」にフリゼット役で出演。 2017年田尾下晢氏演出「ベアトリーチェ・チェンチの肖像」ベアトリーチェ役。 ミュージカル「ソーォス!」リンダ役。

現在ベルリン在住。

 

受賞歴

中国中央戯劇学院主催「第一回アジア演劇大学学生演劇祭」最優秀演技賞(2010年) 日本大学芸術学部学部長賞(2011年)

 

 

 

ポール・グローヴス

Paul GROVES, Tenor

アメリカ出身のテノール歌手。(1964年ルイジアナ州生)メトロポリタン歌劇場を中心に、欧米のオペラハウス、コンサートで活躍する。

メトロポリタン歌劇場のYoung Artists Development Programを卒業後、《さまよえるオランダ人》の操舵手でMETデビューをかざる。その後、25シーズンを通じMETの多くの演目で主要キャストを務める。2007年タン・ドゥン《始皇帝》、2011年《タウリスのイフィゲニア》、2015年《ルル》などの舞台映像により、METライブビューイングを通じて日本でも多くのファンを生んだ。

エクサン・プロヴァンス音楽祭(2015)及びリヨン歌劇場(2016)でピーター・セラーズ演出によるストラヴィンスキー《ペルセフォーヌ》にエウモルポスで出演。

小沢征爾指揮サイトウ・キネン・オーケストラのベートーヴェン交響曲ツィクルスでは第九(CD化)、シャルル・デュトワ指揮NHK交響楽団《エディプス王》などにもタイトルロール出演。

2017-18シーズンは、MET《メリー・ウィドウ》、リヨン歌劇場のブリテン「戦争レクイエム」、プラハ・フィル、ダラス・オペラなどに出演予定。

 

チケット情報

<公演料金>

【1回券】(2017年12月14日発売)
S¥8,000 A¥6,500 B¥6,000 C¥5,000 P(合唱団が入るため販売いたしません) Ys(25歳以下)¥1,500

【春季定期会員券】(2017年12月1日発売)
S¥26,000  A¥21,000  B¥19,000 C¥16,000  P(春季/全4回)¥11,700  Ys¥7,000

購入方法はこちら

日本フィル・サービスセンター
TEL:03-5378-5911(平日10:00-17:00)
FAX:03-5378-6161(24時間受付)
eチケット♪

 

 

助成

助成: 文 化 庁文化芸術振興費補助金(舞台芸術創造活動活性化事業)
独立行政法人日本芸術文化振興会


助成:公益財団法人アフィニス文化財団 

「音楽文化の担い手としてのプロ・オーケストラが主催する、わが国ならびに各楽団が活動の重点を置いている地域にとって意義がある企画」として選ばれました。

選考理由:これまで日本フィルとともに、ロシア作品で数多くの名演を行ってきたラザレフが、満を持してストラヴィンスキーの新古典派時代の傑作のひとつを日本初演する。まさに第700回定期公演に相応しいプログラムだ。テノールには経験豊富なポール・グローブスを配し、万全の陣容で、このいまだ日本では知られざる名品が聴かれるのはまたとない機会である。ロストロポーヴィチのために書かれたプロコフィエフ作品での、辻本玲の独奏も楽しみだ。(アフィニス文化財団オーケストラ助成委員 長木 誠司)

 

助成:公益財団法人朝日新聞文化財団

助成:三菱UFJ信託芸術文化財団

助成:ローム ミュージック ファンデーション