「ロシアの魂ここにあり アレクサンドル・ラザレフ」(インタビュー記事公開)

Interview

ロシアの魂ここにあり  アレクサンドル・ラザレフ

アレクサドル・ラザレフは、2008年9月から8シーズン、日本フィルハーモニー交響楽団の首席指揮者を務め、2016年9月に同フィルの桂冠指揮者兼芸術顧問に就任した。昨秋、首席指揮者のポストを若いピエタリ・インキネンに譲ったものの、ラザレフと日本フィルの関係は変わらない(変化といえば、首席指揮者時代は1年に3度来日していたが、桂冠指揮者になって2度に減ったくらいであろうか)。今回、日本フィル定期演奏会リハーサル直後のマエストロに話を聞くことができた。

取材・文=山田治生  Text=Haruo Yamada

 

 

日本フィルとの関係

 ラザレフは、プロコフィエフ交響曲全曲演奏プロジェクト(2009年1月〜12年10月)の後、2011年9月から「ラザレフが刻むロシアの魂」シリーズを始め、ラフマニノフ、スクリャービン、ショスタコーヴィチを経て、現在、「SeasonⅣ グラズノフ」を進行中である。

 ラザレフは、日本フィルとの9年間を振り返って、こう語る。

「日本フィルは良くなりましたよ。我々の目標は、良い演奏をして、多くの聴衆に来てもらうことです。日本フィルの団員たちとは良い関係が築かれていると思います。基本的には妥協のないリハーサルをしますが、ゴールを目指すときに、妥協が必要な場合もあります。リハーサルは最後の1秒までやります。指揮者はこれとこれをする、ときちんとオーケストラに伝えなければなりません。具体的に指摘して、説明すると、オーケストラはついてきます。すると良い結果が出て、彼らの表現意欲が増して、好循環が生まれます」

 ラザレフは、本当に、リハーサルを決められた時間の最後の1秒までやる。そして、途中休憩の時間も、自分は休憩を取らず、指揮台の上にずっと立ってスコアを見ている。それは、楽団員の質問をいつでも受け付けるためだけではないようだ。

「それぞれのリハーサルのコマには計画性がなければなりません。休憩時間には、リハーサルが計画通りできたのか、これからどうするのかをプランニングし直しています。計画していたことが思っていたよりも早くできた場合は、プラス・アルファで何をするかを考えますし、計画通りに進まなかったときには計画を変えなければなりません。そういう幅のある計画を組む必要があります」

 ラザレフが首席指揮者に就任して、日本フィルが規律を取り戻し、演奏水準を高めたのは事実である。日本フィルにはラザレフのような厳格な指導者が必要であったのだ。

 

「グラズノフ・シリーズ」

 この6月の定期演奏会では、現在進行中のグラズノフ・シリーズの第2弾として、滅多に演奏されないバレエ音楽《お嬢様女中》が取り上げられた。

「《お嬢様女中》は、グラズノフが皇帝の家族のために、エルミタージュ内の劇場で上演するように書いたバレエ音楽です、きれいで小振りな作品になっています。これは、グラズノフにとって、2つめのバレエ音楽で、1つめが《ライモンダ》で、3つめが《四季》でした。《四季》には特定の筋はなく、グラズノフはストーリーのないバレエ音楽を書いた初めての作曲家となり、ストラヴィンスキーの後期のバレエ音楽に影響を与えました」

 今年10月の定期演奏会では、グラズノフ・シリーズの第3弾として、「交響曲第4番」を演奏する。

「グラズノフは、オーケストラを非常によく知っている作曲家でした。彼の楽譜を見ていて、オーケストラの使い方に疑問を持つようなところがあっても、実際にオーケストラでやってみると、とてもよく響いて、彼の上手さを思い知らされます。グラズノフの作品では、楽譜で見てイメージしていた以上のものが得られます。グラズノフには、チャイコフスキーのような美しいメロディはないですが、彼の管弦楽法の巧みさには虜になってしまいます。例えば、ミャスコフスキー(注:『交響曲第27番』まで書いたことで知られる)は、グラズノフとは逆で、楽譜を見ると素晴らしいと思いますが、実際にオーケストラでやると、思っていたような響きが出てこなくて、がっかりさせられます。

『交響曲第4番』、『同第5番』、バレエ音楽《ライモンダ》はだいたい同じ時期に書かれ、交響曲のなかに微妙にバレエの要素が入ったりもしています。

『交響曲第4番』はしっかりと作り込まれていて、魅力満載です。3楽章形式ですが、それぞれが綿密に作られ、第1楽章の序奏など、それだけで一つの楽章のように充実しています」

 この演奏会の後半にはショスタコーヴィチの「交響曲第1番」が演奏される。

「ショスタコーヴィチがレニングラード音楽院に入学したときの音楽院の院長がグラズノフでした。グラズノフはショスタコーヴィチにたくさんアドバイスをしましたが、ショスタコーヴィチは『はい』と言いながらも、何も変えませんでした(笑)。ショスタコーヴィチは天才少年で、『交響曲第1番』を書いたのは19歳の頃。若い才能が溢れていると同時に非常に完成度の高い作品です。その後、ショスタコーヴィチは、『交響曲第2番』と『同第3番』でアヴァンギャルドを模索しますが、自分らしさは見つからず、『同第4番』になってやっと自分の土台を見つけ出します」

 

学友との共演

 また、10月の横浜定期演奏会と名曲コンサートでは、ボリス・ベルキンと久々に共演し、ショスタコーヴィチの「ヴァイオリン協奏曲第1番」を取り上げる。

「ボリスとは、モスクワ音楽院で一緒に勉強した仲です。1969年頃でしょうか、当時、モスクワ音楽院は東ベルリンの音楽大学と交流があり、モスクワ音楽院の学生オーケストラでベルリンに行ったことがありました。そのときの学生オーケストラのコンサートマスターがベルキンで、指揮を私が務め、モーツァルトの《アイネ・クライネ・ナハトムジーク》などを演奏しました。モスクワ音楽院の素晴らしいヴァイオリニストたちのなかでも、彼の実力は抜きんでていました。

 彼と最後に共演したのはイギリスで、正確には思い出せないのですが、かなり昔です。ところが、1年前に仙台国際音楽コンクールの審査員をするために日本に来ていた彼に、東京で偶然に会い、今度、日本フィルで一緒に演奏できればいいね、という話になりました。そして本当に久々に共演することになりました」

 来年5月には、日本フィルの第700回定期演奏会で、ストラヴィンスキーの声楽入りの大作《ペルセフォーヌ》の日本初演を指揮する。ラザレフはこれからも日本フィルで重要な役割を担っていく。

 

■演奏会情報

アレクサンドル・ラザレフ指揮&日本フィルハーモニー交響楽団

第331回横浜定期演奏会〈秋季〉

〈日時〉2017年10月21日18時〈共演〉ボリス・ベルキン(vn)〈曲目〉ショスタコーヴィチ「ヴァイオリン協奏曲第1番」、チャイコフスキー「交響曲第6番《悲愴》」

第373回名曲コンサート

〈日時〉2017年10月22日14時〈共演〉ボリス・ベルキン(vn)〈曲目〉ショスタコーヴィチ「ヴァイオリン協奏曲第1番」、チャイコフスキー「交響曲第6番《悲愴》」

第694回東京定期演奏会〈秋季〉

〈日時〉2017年10月27日19時、28日14時〈曲目〉グラズノフ「交響曲第4番」、ショスタコーヴィチ「交響曲第1番」

 

 

出典 音楽の友2017年8月号